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"ワイルドフラワー"播種による緑化手順

ワイルドフラワーによる緑化は景観的な美しさが特徴です。近年,緑化が行われる空間・目的とともに多様化しており,そのパターンによって作業手順を設定していく必要があります。

計画と設計

1.緑化対象地の把握

緑化目標の設定,使用植物の選定,植生基盤の整備をはじめとする育成管理計画を決定していく際に緑化対象地の把握が必要となります。

把握すべき点と反映させる項目

項目 調査・把握する点 反映させる計画項目
気象条件  温量指数区分,日照,風の影響  使用種子の選定
地理条件  傾き,面積,標高  施工方法,植物の選定
土壌条件  土壌硬度,pH,土性,透水・排水性  施工方法,植物の選定,管理作業
現存植生  存在する植物の有無と繁茂状況  施工方法,管理作業(除草など)
周辺状況  周辺の植生,土地利用状況  緑化目標の設定

2.緑化目標の設定

緑化の目的は自然環境の改善に主体を置くものや傾斜地の土地保全に主体を置くものなど様々です。ワイルドフラワーを用いた緑化では景観の改善に特に効果が期待できます。 そのため恒久的な緑化を目指す,樹林化初期段階の景観改善などへの利用が可能です。 緑化対象地の条件を考慮し,これからの目的に沿った目標群落を設定する必要があります。 またワイルドフラワー単一種の播種,数種のワイルドフラワー種子の混播,あるいは芝草・木本植物との混播など,目標をいくつかの大まかなパターンに分けることも重要となります。

緑化目標のパターンと配合比率,施工対象地の例

パターン 配合比率(期待発生本数比) 施工対象地例
 花(短期)  花(1年草) 70~100%  ・花壇
・テーマパーク
・花畑
・ゴルフ場
 花(多年草)  0~30% 
 花(長期)  花(1年草)  0~30% 
 花(多年草) 70~100% 
 花+芝草  花 50~90%  ・緑地公園
・工事空き敷地
・緩傾斜法面
 芝草 70~90% 
   
 花+芝草  花 10~30%  ・中央分離帯
・サービスエリア
・河川敷
 芝草 70~90% 
   
 花+芝草+木本  花 10~20%  ・急勾配法面
・イベント会場
 芝草 40~50% 
 木本 40% 

3.使用植物の選定

設定した目標群落を基本とし,播種時期や施工方法など詳細な条件を考慮して適切な植物を決定します。ワイルドフラワーはその特性により1年草と多年草に大別されるのを始めとして,花色・播種適期・草丈等,考慮しなければならない項目が数多くあります。

混播について

ワイルドフラワー同士の組み合わせ
そろぞれの草種の花色,形状,育成速度等を勘案して混播割合を決定します。組み合わされる草種は数種~30種程度まで幅広い配合例がありますが,花期(観賞期間)に配慮すると一年草と多年草の組み合わせが一般的です。

芝草とワイルドフラワーの混播
法面などの浸食防止効果とワイルドフラワーによる修景効果を目的として混播する場合,それぞれの草種と混播割合をどの様に決めるかが問題です。概ね芝草に対しワイルドフラワーは粒数比で30~50%混播すれば,芝草の侵食防止効果をそこねることなく花による修景効果が期待できます。

 混播に適するワイルドフラワー
 オオテンニンギク,フランスギク,キーデージー,ノコギリソウ,コスモス,ヤグルマソウ など
 混播に適する芝草
 寒冷地型芝草   トールフェスク,クリーピングレッドフェスク,ケンタッキーブルーグラス,ハイランドベントグラス
 など
 暖地型芝草   バミューダグラス,バヒアグラス など

施工

4.基盤の整備

植生工前の基盤整備においては,ワイルドフラワーの生育に著しい阻害を受けない程度の基盤整備が必要となります。過度の基盤整備は雑草の過繁茂やワイルドフラワーの生育に好条件となり過ぎ本来のワイルドフラワーらしさが損なわれてしまいます。

基盤整備の要求基準と方法

項目 ワイルドフラワーの発芽・生育に支障が起きる基準 整備方法
 土壌硬度   山中式土壌硬度計で25mm以上
 長谷川式土壌貫入計でやわらか度1.0cm/drop以下
 耕耘(深さ10~20cm)
 排水性  降雨後,24時間以上水が引かない状態  排水工(緑化基礎工)など
 透水性  透水係数10-4cm/sec以下  無機質系土壌改良資材の使用
 土壌pH  pH(H2O)が4.5以下および8.0以上  pH矯正資材の使用

5.播種

ワイルドフラワーの播種方法には大きくわけて手播きと専用機械による播種があります。条件に適した方法を用いる必要があります。また,播種時期は使用する植物により変化しますが,大まかに日平均気温が10℃~20℃である春・空きの時期が適しています。

 手播き  施工地が小面積の場合に適します。播きムラの無い様にすることが大切で,播種後は1~2cmの厚みで覆土し鎮圧します。
 種子吹付工
 客土吹付工
 種子吹付工・客土吹付工はある程度の大面積の施工地や法面の播種に適し,吹付機を利用する 植生工です。但し,急勾配の法面などでは,緑化基礎工の併用が必要となる場合があります。
 厚層基材吹付工  急勾配の法面や生育基盤が悪い場合,木本類などワイルドフラワー同士ではない混播に適します。 ワイルドフラワーと他の種子の発芽を考慮することが重要となります。

播種量について

播種量は,施工後の期待成立本数から算出することで求めることができますが(下記の式による),設定した緑化目標の違いや使用する種子の条件,施工方法,施工条件などの様々な条件によって変化します。 芝草や木本類など他の種子と混播する場合においてもこの数式から算出できますが,発生期待本数は播種量に大きく関わっているため諸条件から考慮し適切に設定する必要があります。 一般的には最終成立本数として50本/m2程度を目指し,発生期待本数を500~1000本/m2を各条件によって増減させることが妥当です。

種子量の設定

C:立地条件に対する各工法の補正率

立地条件 補正率
法面勾配 50度(1:0.8)以上 0.9
50度(1:0.8)以下 1.0
土質 硬岩 0.9
その他 1.0
法面方位 南面で硬岩 0.8
その他 1.0
降水量 1,000mm未満 0.7
1,000mm以上 1.0

D:施工時期の補正率

施工時期 草本植物 木本植物
3月~6月 1.0 1.0
7月~8月 0.8 0.7
9月 1.0 0.5
10月~11月 0.7 0.5
12月~2月 0.9 0.8

管理と維持

6.管理と維持

ワイルドフラワーによる緑化は播種施工後の管理作業が不必要と考えられている傾向もみられますが,最低限の作業が必要となります。特に花による美しい景観の持続には除草・刈り込み・追肥・追播などの維持管理作業が必要です。

ワイルドフラワーの年間管理計画表

作業環境 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
除草    
 
   
追肥                  
刈込み                  
追播            

※各作業を行う時期の目安


除草

基本的にはワイルドフラワーが,期待していないほかの植生に被圧されない程度に除草作業を行うことが重要です。ただし設定した緑化目標によっては年に1~3回と目標達成のための除草が必要となります。

追肥

ワイルドフラワーの生育状況に応じて土壌の条件を考慮し,適宜行うことが持続的な緑化につながります。雑草の進入を抑制するための窒素分の比率の低い緩効性肥料(N:P:K=3:6:4)を年に1回程度100g/m2で行うことが目安となります。

刈込み

開花終了後の花殻をそのままにしておくと景観的に好ましくありません。持続的な緑化を目標としている場合,期待しない植物の繁茂を抑制するためにも,毎年開花終了後に20cmの刈高を見安に多年草の葉を切らない程度に刈込み作業を行うことが重要です。

追播

施工後数年間,特に3年目以降になると設定した目標から外れていく場合があります。このような場合には追播作業が必要となり,春または秋の条件の良い時期に現存植生を刈込み,生じたギャップに適正な方法でワイルドフラワーを導入します。

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